Anseriformes

カモ系論文を延々と紹介しやす。。。

精子競争 sperm competition

 従来のガンカモ類の陰茎の比較解剖学的研究*1では、そのサイズ

と構造の精巧性は、精子競争*2によって進化してきたと結論付けて

いたが、著者らは何種かのガンカモ類の陰茎に棘と畝状の構造を

発見し、これは高リスクの精子競争をしている種では、競争相手

精子を膣から取り除く機能があると*3仮定した。我々の研究では

膣構造は、ガンカモ類の陰茎のサイズや精巧性に見られる

多様性の進化が雌雄間に働くの選択が付加的というよりおそらく根本

的な選択圧であることを強く示唆している。

*1:解剖によって内部の形を比べて検討する事

*2:個体及び精子卵子との授精をめぐって他個体及び他個体の精子とあの手この手で受精率を上昇させる競争をする事

*3:Coker CR, McKinney F, Hays H, Briggs S, Cheng K (2002) Intromittent organ morphology and testis size in relation to mating system in waterfowl. Auk 119(2): 403–413.

性選択

  性器の形態は、メスがより良い刺激やより高質のオスを選り好み(female choice)*1,*2して起きた共進化の結果と仮定され、あるいは、射精と受精の制御に関する軍拡競争の結果である*3。これらのメカニズムを形態情報のみで区別することは不可能で、オスの陰茎による操作とメスの 強制的ペア外交尾(FEPCs)への抵抗が、ガンカモ類の性器に見られる共進化を説明するようだ。我々が発見した膣形態は、陰茎の貫通やFEPCsの障壁として、膣の新たな機能でありガンカモ類の性器形質進化の原因であることを強く示唆している。

しかしながら、従来、鳥類の総排泄腔*4のメカニズムは、メスに精子の管理手段を与え、FEPCsの成功確率を下げると示唆されたが*5、本研究の結果は、メスの卵管のクロな解剖学的適応がメスの隠れた選り好み(cryptic female choice)のメカニズムとして働く可能性を示す初の証拠である。ガンカモ類の非常に低いFEPCsによる受精成功率4-9は、メスの授精率制御能を有することの反映である。

  1. Burns JT, Cheng K, McKinney F (1980) Forced copulation in captive mallards. I. Fertilization of eggs. Auk 97: 875–879.
  2. Dunn PO, Afton AD, Gloutney ML, Alisauskas RT (1999) Forced copulation results in few extrapair fertilizations in Ross and Lesser Snow Geese. Anim
    Behav 57: 1071–1081.
  3. Evarts S, Williams CJ (1987) Multiple paternity in a wild population of mallards. Auk 104(4): 597–602.
  4. Peters JL (2002) Extrapair paternity, pursuit flight activity, and breeding synchrony in Gadwall (Anas strepera). FrostburgMaryland: Frostburg State
    University.
  5. Peters JL, Brewer GL, Bowe LM (2003) Extrapair paternity and breeding synchrony in gadwalls (Anas strepera) in North Dakota. Auk 120(3): 883–888.

*1:Eberhard WG (1985) Sexual Selection and Animal Genitalia. Cambridge: Harvard University Press. 244 p.

*2:Eberhard WG, Cordero C (2003) Sexual conflict and female choice. TREE 18(9): 439–440.

*3:Gavrilets S, Arnqvist G, Friberg U (2001) The evolution of female mate choice by sexual conflict. Proc R Soc Lond B 268: 531–539.

*4:直腸、排尿口、生殖口を兼ねる器官

*5:Gowaty PA, Buschhaus N (1998) Ultimate causation of aggressive and forced copulation in birds: Female resistance, the CODE hypothesis, and social monogamy. Am Zool 38: 207–225.

自然選択の考察

ほぼ陸上で交尾をするガンカモ類はほとんどいない。

(例えばカササギガンAnseranas semipalmataハワイガンBranta sandvicensisロウバシガンCereopsis novae-hollandiae、が挙げられる。)

強化 reinforcement(自然選択による雑種化の防止)は、鍵と鍵穴のメカニズムと複雑な性器を先導することができる1

雌雄の性器が共進化したという、この仮説は、オスの性器(鍵)が交尾成功のためにはメスの性器(鍵穴)に調和しなければならない2。しかし、膣は陰茎と逆方向に螺旋するので、相利的というより敵対的な共進化であることを示唆する。つまり鍵と鍵穴仮説を支持しない。

  1. Mayr E (1963) Animal species and evolution. Cambridge: Harvard University
    Press. 797 p.
  2. Eberhard WG (1985) Sexual Selection and Animal Genitalia. Cambridge: Harvard University Press. 244 p

自然選択

メスの膣における嚢状部pouchesとspirals螺旋構造は自然選択だけでも進化し得る。たいていのガンカモ類では水中に交尾部が位置するので、卵管の入り口はしっかりと閉鎖する構造を形成する。もし、膣内に水の侵入リスクが陰茎長に比例するなら、これはより長い陰茎を有する種に螺旋構造があることを説明できるが、この仮説単独では、何故螺旋構造が陰茎と逆方向に捻じれているか、あるいは嚢状部の存在を説明できない。

相同

ここで観測された、陰茎長さと膣の精緻化との相関関係は、これらの形質が相同であれば生じ得る。もし形質が相同であれば、一方の性の精緻化する形質に選択がかかると、他方の性の相同形質の精緻化に相関関係を導き得る1。しかし、ガンカモ類の性器は相同ではなく、メスの卵管はミューラー管に由来し2、オスの陰茎は、総排泄の腹測位からのメスの半陰茎に相同な組織に由来するものである3

  1. Maynard Smith J (1978) The evolution of sex. Cambridge: Cambridge
    University Press.
  2. Jacob M, Bakst MR (2007) Developmental anatomy of the female reproductive tract. In: Jamieson BGM, ed. Reproductive biology and phylogeny of birds.Enfield: Science publishers. pp 149–179.
  3. King AS (1981) Phallus. In: King AS, McLelland J, eds. Form and Function in birds. New York: Academic Press. pp 107–148.

共進化の検証

この予想を検証するため、系統遺伝学的に制御された比較研究をガンカモ類16種で行った。

その結果、種間に膣、陰茎における嚢と螺旋の構造数に大きな変異が見つかり、予想したように小型の陰茎を有する種は短く単純な構造の膣であり、一方長い陰茎を有する種ではより長く、より精巧な構造の膣となっていた。